2023年2月3日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第328回
ドル一極体制の終わりの始まり
浜田和幸
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このところ、日本ではウクライナ戦争が飛び火し、「台湾有事」を引き起こすのではないかといった議論が沸騰しています。
中国による台湾への武力侵攻が「2025年前後に行われるのでは」といった観測も専らです。
とはいえ、この点に関して、先に来日した旧知のグレン・フクシマ氏は冷静な対応の必要性を訴えていました。
同氏は米通商代表部(USTR)で長年、日本と中国を担当した経験の持ち主です。
その後、エアバス・ジャパンの社長を務めるなど、ビジネスの現場を潜り抜け、現在はバイデン大統領の指名を受け、米国投資者保護公社の副理事長という要職にあります。
同氏曰く「アメリカ政府や議会は中国との戦略的競争関係を最大の脅威と受け止めてはいるが、アメリカ企業は中国市場を失うことには慎重な構えである」。
話題の半導体の先端技術に関しても、フクシマ氏は「アメリカも中国も台湾に依存する度合いが高いことを考慮すれば、台湾への武力攻撃は中国にとっても百害あって一利なしといえるもの」と指摘し、「軍事的な衝突の可能性は抑えられる」との見方を取っています。
要は、アメリカ政府は表向き通商経済問題で中国に厳しい姿勢を見せていますが、外交安保に関しては衝突を避ける構えを見せているといえるでしょう。
その背景には、アメリカにとって最大の通商相手である中国へのけん制政策に「限界があることが明らかになってきた」ことが影響しています。
つまり、アメリカ1国では中国封じ込めは限界があるため、先端半導体製造装置の対中輸出規制にしても、日本やオランダにも働きかけざるを得なくなったのでした。
他方、世界的な課題である気候変動、再生可能クリーン・エネルギー、サイバー・セキュリティなどの分野では中国との協力も欠かせないというのがアメリカの基本的認識です。
この点を見誤ると、今にも米中対立が台湾有事を引き起こすかのような極端なシナリオに翻弄されることになりかねません。
また、岸田首相がゼレンスキー大統領からの要請を受け、2月中にウクライナを訪問し、5月の広島G7サミットにおける「ウクライナ支援」の先導役を模索していることも要注意です。
確かに、G7の首脳でゼレンスキー大統領と対面で会談していないのは岸田首相だけ。
しかし、ロシアを非難するばかりで、現在のウクライナ危機の真相を明らかにせず、武器や資金をゼレンスキー政権に提供し続けることは戦争の長期化とウクライナ、ロシア両国における被害者を増加させることにしかなりません。
というのも、ゼレンスキー大統領は「汚職や腐敗を根絶する」と訴え、ウクライナのポロシェンコ前大統領を打ち破ったにもかかわらず、その後は「ウクライナ史上最悪の大統領で、私腹を肥やすばかり」と非難が集中しているのが現実だからです。
以前から「ヨーロッパ最悪の汚職大国」と異名を取っていたウクライナですが、ゼレンスキー政権の下でも、事態は変わっておらず、先週も、ゼレンスキー大統領の側近が相次いで海外からの援助金や支援物資の横領問題で更迭されています。
アメリカ議会でも、特に共和党議員からは「提供した資金や武器の行方を把握する必要がある」との声が大きくなってきました。
欧米が支援の見直しを進める中、日本は「最後の、最大の財布」とあてにされるようになってきています。
具体的には6000億円から8000億円ほどの復興資金を求められることになりそうです。
一方、ウクライナ戦争の陰で見えにくくなっていますが、世界は新たな「通貨覇権戦争」に突入しています。
既にBRICsではサウジアラビアやイランなど加盟国を増やしつつあるのですが、原油決済をドルから新たな共通通貨、しかも金(ゴールド)に裏付けされたものへ移行する動きが見られるからです。
もし、そのような事態となれば、「ドル一極体制」が崩壊することになり、戦後のアメリカの政治、経済、軍事的優位性は維持できなくなります。
日本もアメリカのドルや赤字国債を大量に買い支えてきましたが、全てが紙くずになりかねません。
この点に関しては、フクシマ氏は投資者保護の立場から、アメリカの銀行、証券会社など金融機関に対して資源やエネルギー開発と国際的な金融ネットワークの維持と発展を強化し、最悪の事態を回避するようアドバイスをしているとのこと。
日本においては個人も企業も、アメリカの裏付けのないドルに依存できる時代は終わったことを理解し、円の国際化が幻想に終わった今、アジア諸国との共通のバスケット通貨に向けて舵を切るべきと思われます。
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