週刊金曜日5月26日号の「これからどうする?」
女たちは軍拡を許さない
田中優子(江戸文化研究者。前法政大学総長)
6月4日の13時半から、東京・神田神保町の専修大学で「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」のシンポジウムが開催される。
まず、国際政治を専門とする東京大学名誉教授の藤原帰一さんから、「安全保障のジレンマ」という話をしていただく。その後、望月衣槊子さんの司会で、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」の共同代表である奥谷禮子さん
と私、そして副代表の上野千鶴子さんが加わって、女性が参政権を得てから初めて迎える「戦前」をどう考え、どう抗していくか、存分に話し合うつもりだ。
藤原さんは『「正しい戦争」は本当にあるのか』(講談社)や『戦争の条件』(集英社)などの著者である。教条的な平和「主義」にも軍事「主義」にも陥ることなく、戦争の起こらない状態をどのように実現し、その状態を保てばよいのか、これらの著書はそれを読者が自ら考える場所を提供している。
宗教はもちろんのこと、政治家にも学者にも有名人にも、頼るのはもうやめよう。「民主主義」を実現するには、個々人が自分で考え、自分で選択する能力が必要なのだ。藤原さんの著書は「問い」を発し、それに
ご自身も答えつつ、読者にその答えを考えてもらう方法をとっている。
戦争こそ、自ら考えないと、さまざまな詐欺に引っかかる。「この戦争こそあなたを守ります」「これは正義の戦争です」「軍需産業が日本を豊かにします」「戦争に勝てば一儲けできます」「日本は絶対に戦場になりません」等々。
戦争で得をしたい人たちは、そういう言葉をささやくに決まっている。
「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」は、岸田文雄首相、政府・与党、野党各党の代表、連合代表に対し、
二つのことを求めている。
第1は、軍事費GDP2%を撤回すること。第2は、歯止めなき軍拡を押し進めることをやめ、そして女性や子ども、若者や社会的弱者の目線に立った政策を進めること、である。
第2の要求のために第1の要求がある。自衛が必要なことは多くの人がわかっている。しかしそのことと「敵基地攻撃」や「ミサイル配備」との間には大きな隔たりがある。軍拡の目的が武器輸出であることも見えてきた。
税金は国民が生きていくためにある。その中にはこれから何十年も生きる子どもたちがいて、育てる親たちがいる。その当たり前の現実を直視してほしい、と「女たちの会」は言っているだけなのだ。
女性に参政権のある「戦前」たとえば岸本聡子氏が区長である東京・杉並区議会では、選挙時に公約にした給食費無償化や児童館再整備など多くが先送りとなっていたという。
少子化対策を最優先させねばならないのに、この事態はおかしい。
その背景には、与党の価値観が横たわっていると思われる。
その杉並区議会は4月23日に実施された区議選で、定数48人のところ当選者の25人が女性となった。
投票率は前回より4・19ポイント上昇した。
その程度の上昇でも約2万票が増え、このような大きな
変化が起こったのだ。
その理由の一つが、党派を超えた女性たちの「合同街宣」にあったという。
女性たちは今、小異を捨てて大同につく、という際に立っている。
縮まらない賃金格差、非正規雇用、家父長的家族観。その現実のなかで、全国で女性市議22%という最多を記録し、女性市区長も過去最多となっ
た。最多といっても50%には遠く及ばない。それでも「新しい戦前」と言われるこの軍拡時代は以前の「戦前」とは違う。女性が参政権を得て初めて迎える「戦前」なのだ。
女性の投票率が増え、女性が声を上げれば社会は変わる。
「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」は、東京で1月11日に発足し、2月8日に大阪と熊本で同時に立ち上がった。ついで北海道で立ち上がっている。次々に自主的に立ち上がるのが理想だ。
しるしは、ミサイルが鳩になって飛び立つ文様のスカーフである。
声を上げられない事情の女性たちもそれとなく意志を示すことのできる
「しるし」があっという間に決まり、首やバッグに巻き始めた。
それもまた、「女たち」のやり方なのである。