(1)私の履歴書 NY編
2023年8月1日 中川十郎
日本競争情報専門家協会(日本ビジネスインテリジェンス協会)設立事始め(1)
米国ニチメン(現双日)ニューヨーク駐在時、1989年2月、NY JETRO駐在員の大学後輩から米国の競争情報専門家協会が近くNYで総会を開く。日本総合商社の情報収集、活用について話してほしいとの要請が来ている。講演してほしいとの依頼があった。これが筆者が過去32年間、日本ビジネスインテリジェンス協会に関与することになったきっかけである。
ご縁とはまことに不思議なものだ。当時筆者はワシントン得意先の紹介で元国家情報評議会副議長のHerbert Mayer氏の著作 “Real World Intelligence”(日本語訳『CIA流戦略情報読本』ダイヤモンド社、1990年9月刊)を翻訳中で、米国のCIA(中央情報局)を中心とする情報収集、活用がいかに進んでいるかを強く意識していた。この競争情報専門家協会は冷戦終結後、CIAの諜報関係者が中心となり、国家諜報の手法を民間に適用しようとの意図で1986年にワシントン近郊に本部を置いて設立されたものである。
米国の情報機関の手法を理解するには、この協会の情報研究会に参加する諜報関係者の治験を活用できると判断。NY大会で日本商社のビジネス情報収集について話す機会に、米国の競争情報収集の手法も学ぼうとの意図で参加した。CIAや軍、民間企業の情報部門、企画、調査関係者約100人ほどが参加。日本商社の開発・企画担当として、ビジネス開拓には米国人脈を活用し、その人脈から得た情報を新規ビジネス開拓に活用している。とくに得意先の国連広報官の知人や、当時、日本人として最も米国人社会に食い込んでいるといわれた「紅花」のRochy Aoki氏などの人脈を活用、ビジネス開拓に努力している。ただし日本の総合商社は100年の伝統があり、海外にも100社近い駐在員事務所を設置。海外情報活用によるビジネス開拓にはこれから日本の総合商社をまねて貿易会社を設立しても一朝一夕には成功しない。むしろ海外に広範なビジネス情報網、ビジネス拠点を有する日本の総合商社と協力して米国産品の輸出に努力することを勧めると話したところ大きな反響があった。
この時の講演が基で、米国競争情報専門家協会日本支部を設立してはどうかとの話が舞い込んだ。筆者は1990年に帰国後2年の準備期間を経て、1992年2月12日に東京に日本競争情報専門家協会(現日本ビジネスインテリジェンス協会)を設立することになった。虎ノ門ANAホテルでの発会式には米国、フランス、スエ―デン、豪州の競争情報協会幹部を含め、総勢300人が参加。創立総会ではドクター中松・協会名誉顧問、および小野田寛郎元日本陸軍情報将校に名誉顧問として開会の挨拶を頂き、内外の参加者に注目された。次回は32年間、182回の研究会で累計参加者16000人となった情報研究会の推移を報告したい。